のんびりと始まり

光あそぶ日記

初日の幕開けです。金曜日ということもあり、出だしはのんびり。2時近くまでお客さんが来なかったので、マルヤマさんと二人でゆっくり会場準備ができました。今回会場に設置したモニターで、ドキュメンタリー映画「杜人 環境再生医矢野智徳の挑戦」の予告編と、この映画の中に登場する「じゅんこの庭プロジェクト」の18分ほどの映像、そして、これまでカフェ「ひねもすのたり」で行ってきたミニ個展で披露したイラストの画像などを反復再生しています。よろしかったら、カフェのドリンクなどを飲みながらゆっくりご覧ください。(「じゅんこの庭プロジェクト」の説明は下段に引用しておきます。少々長いです)

 今日は20名ほどの方に来ていただきました。ありがとうございます。みなさんお茶など飲みながらゆっくり見ていただき、お話もできて楽しい時間でした。ひねもすオーナーのサチコさんと僕は長い友人づきあいなので、共通の知り合いも多く、お客さんを交えて話しているうちに人脈が繋がっていたことを知ってびっくりすることも多いのです。

話に花を咲かせているうちにいつの間にか閉廊時間となりました。個展にいつも来てくれるユウコさんからいただいたタルトを、友人のクシマさんと、マキちゃんとサチコさんで美味しくいただいて1日目終了。飲みにもいかず、おとなしく帰りました。自宅最寄り駅近くのインド料理屋で、同じ駅利用者のマキちゃんと食事をしていたところ、たまたま隣の席に黒人男性が一人で食事をしに来ました。好奇心の強いマキちゃんが話しかけたところ、近所の大学で教えているアフリカ系ヨーロッパ人の方でした。日本に12年住んでいるけど日本語は話さないとのことで、久しぶりに英語で会話。と言っても僕の英語はブロークンで、慣れているマキちゃんがリードしてましたが。今日は最後までおしゃべりな1日でした。


【じゅんこの庭プロジェクトのこと】「じゅんこの庭」とは、妻の故・長野淳子の実家で僕が今住んでいる一軒家の、庭の呼称です。約50坪ほどの面積にソメイヨシノやイチョウなどの高木が生い茂る雑木林のような庭。サンショやビワ、カキ,ミカンなどの実のなる木もあります。春にはフキ、コゴミなどの山菜が顔を出し、ショカツサイ、ハナニラ、ヒメオドリコソウ、ハルジオンなど色とりどりの花が色を添える。野性味溢れるこの庭を彼女はとても好きでした。

 末期ガンで闘病中の2018年4月に、友人の本所稚佳江さんの勧めで淳子は造園家の矢野智徳さんと会います。「大地の再生」という哲学と独自の技術を持つ矢野さんのお話に熱心に耳を傾け、同年7月の施工を決めました。友人達と一緒に学びながら庭の手入れをする趣旨のイベントとし、本所さんが「じゅんこの庭プロジェクト」と名付けます。本人もその日を楽しみにしていました。

 淳子は6月18日に逝去します。その二週間後の7月1日に予定通りプロジェクトを決行しました。友人たち約30名と、矢野さんのスタッフ10名ほど、計40名あまりが集いました。庭を見わたす場所に淳子の遺影をおき、矢野さんの指導の元、庭中に幅30センチ深さ40センチ程の溝を掘り巡らしました。そこに炭や竹や選定した枝葉を入れ、地面の中の水と空気の循環を改善するのです。矢野さんは重機を扱い、鎌をふるい、かと思えば高木に登って剪定しと、エネルギッシュに動き回ります。その姿を追いながら、皆でわいわいと行う野良仕事は、村落の共同作業のような雰囲気で、僕は妻を失って間もないのにひたすら楽しかった覚えがあります。淳子がきっと側にいると感じていました。その日の作業は朝から初めて、夏の陽が沈み手元が見えなくなる頃にようやく終了。打ち上げは夜中まで続いたような気がします。

 その場に一人、熱心にビデオ撮影をしている女性がいました。ドキュメンタリー映画作家の前田せつこさんです。この日が僕とは初対面。前田さんは生前の淳子にはもちろん会っていませんが、共通の友人、纐纈あや監督の紹介で現場に来ていたのでした。前田さんが矢野さんを追いかけ始めてまだ二ヶ月ほどの頃です。それから4年後、2022年の4月。前田さんの初監督作品「杜人~環境再生医矢野智徳の挑戦」が封切られました。その冒頭部分に「じゅんこの庭プロジェクト」の光景が8分に渡って編み込まれていました。映画はヒットし、今も全国のあちこちで自主上映が続いています。庭を愛した淳子の遺志が大勢の方の目に触れているような気がして嬉しく、様々な「ご縁」の不思議さを思います。

 この会場で写している映像は、「杜人」の予告編(約2分)と、今回の個展に際して前田さんからご提供頂いた「じゅんこの庭プロジェクト」の当日の模様(約18分)です。