亮月幽森日記

 こんばんは。亮月幽森展、4日目が終了しました。肌寒かった昨日から一転して、暖かい一日…だったようですね。ギャラリーにずっと籠っているので余り外気温がわからないのです。今日も20名程の方にご来場いただきました。ありがとうございます。

 会場に入ると正面に大きく印刷したイラストが2点飾ってあります。その一点は主人公の猫が食中毒で苦しんでいるシーンを描いています。ひっくり返っている猫の回りには何だか不思議な図形がいろいろと配されているのですが、これはなんでしょう?「山の幸がころがってるんでしょ?」「ワイングラスみたいのがいっぱいあるよね。このネコはお酒を飲み過ぎて苦しんでるのかな?」など、いろんな感想を聞きましたが、実はこれ、《粘菌(ねんきん)》と言う生き物をモデルに色や大きさを誇張して描いたもの。アメーバと菌類の中間的な生き方をする粘菌は、1ミリ以下の大きさで、実に多様性にとんだ形をしてます。たまたま家の本棚にあった『粘菌』という写真集を開いたところ、シュールレアリスムの絵画のような奇妙な造形に惹き付けられました。よーし、ネコが菌にいじめられてるというシーンの象徴として粘菌を配役しよう!と思いついた次第。

 写真集『粘菌』に収められた写真を撮ったのは友人のカメラマン、伊沢正名さんです。伊沢さんはキノコや粘菌など極小の世界を捉えた写真で一世を風靡した写真家です。今は《糞土師(ふんどし)》と自称して、人が生命循環のサイクルに入るための手段としてのノグソ(野糞)を哲学的背景を説きつつ伝導する使命に殉じています。

 友人とはいえ無断でイラストをモチーフにしていたので、会場に来てくれたらいいなーと思っていたところ、本日ご本人が来てくれました。もちろん伊沢さんは絵を見てすぐ、「あれ? なんでここに○○菌がいるの?」と喝破。さすがです。今回描いた絵は、月とネコというテーマ柄、どうしても夜のシーンが多くなるのです。でもそればかりだと全体が暗くなる。どこかに暖色系の色を入れたいとそれぞれの絵の色彩を考えているのですが、この粘菌の絵はうまく暖色系を入れ込めました。伊沢さんの素晴らしい仕事に感謝です。

 明日はいよいよ最終日。閉廊は5時になります。

亮月幽森日記

 おはようございます。今日は高気圧が張り出して晴れの予報。亮月幽森展4日目です。今日も僕は12時半から午後7時まで終日在廊予定です。

 毎朝起きるときに、僕は枕元のラジオをつけるのがクセです。だいたいNHK第一放送に設定してます。今日も半分寝ながら平日の帯番組《スッピン》を聞いていたら、何だかガサガサと異音がする。意を決して起きてみたら、布団のすぐ横で猫のクルミが鳥をたべてました〜。羽毛の模様からドバト(鳩の一種)のよう。その辺一帯に羽毛が飛び散るなか、ハグハグと食む音が異音の正体でした。うちのネコどもは狩猟本能がまだ健全で、食料自給率がそれなりにあります。鳥はもちろんネズミや昆虫、は虫類など結構捕獲しては食べてます。キャットフードは与えてますけどね。今朝の状況はまだそれほど凄惨な現場ではなかったけど、時にはネズミの頭が転がってたり、半分だけのヤモリが転がっていたりと、なかなかワイルドな朝を迎える時もあります。

 昨日の日曜日は終日雨模様でした。朝、ギャラリーオーナーの平さんと「今日は天気が悪いし、人出も少ないかもねー」と話していました。口開けの来場者は佐賀県から上京してくれたツルちゃん。二日後にミャンマーに出発するので、タイミングが良かったようです。コロナ騒ぎで日本人の渡航が制限されてますが、ミャンマーは大丈夫なのかな。「ま、大丈夫でしょう。なんとかなりますよー」と飄々と話すツルちゃんでした。

 会場に、一冊のハードカバーの本が展示してあります。「共同体なき社会の韻律」というタイトルから想像がつく通りの学術書です。僕が表紙の装丁を手がけました。正確に言えば、僕が挿画を提供し、相棒のマルヤマさんが装丁作業を手掛けた仕事です。「完全データ入稿」と言って、画稿データはそのまま印刷すれば本番、という状態で納品するのが常識と言う時代になりました(20年くらい前までは紙に書いた設計図とイラストを渡せば印刷所が続きの作業をしてくれました。そこまでなら僕もできるんですがパソコン作業が…)。

 昨日はその学術書の著者、川瀬由高さんが来場してくれました。挿画を描くに当たって内容は全部読んでいましたが、著者には初対面。論文の内容から漠然と抱いてたイメージと違い、童顔のニコニコした若き学者さんでした。

 会場で見ていただけると分かりますが、僕が描いた表紙絵は学術書らしからぬへにゃっとした絵です。描いている時も「こんな絵でいいのかな〜」と思ったりもしましたが、編集者のミトクさんが敢えて僕を起用した意味はそう言うことだろうと開き直って描いたもの。内容と装丁のギャップが好評だと聞いてましたが、著者ご本人からもそう聞いて安心しました。「共同体なき社会の韻律」というタイトル文字も手描きなのですが、「“手描き文字”という用語、初めて聞きましたよー」と川瀬さん。当たり前と思い込んでる言葉が案外“業界用語”なのだなと思いました。

昨日はいつもより2時間も短い開廊時間でしたが、それでも30名程の方にきていただき感謝の気持ちばかりです。閉廊近くに来てくれた友達数名と、東京駅にほど近い台湾料理屋で一杯やって帰宅しました。いつもぶっ飛んだ発想でいろいろと面白いことを企画するチアキちゃんから、遊びのアイデアを提案され、ほろ酔いの頭がグニャグニャと回転しました。