絵師敬白

炎暑の8月、東京下町で薩摩琵琶の《壇ノ浦》をたまたま聴いた。女性奏者の謡が進むに連れ、かき鳴らされる琵琶の音に乗って、荒れ狂う海や沈みゆく魂のイメージが脳裏に流れ込んできた。

栄華を誇るも滅びゆく平家は、さしずめ巨大なクジラか。この海を描きたいと思った。にわか勉強の「平家物語」を参考に、一の谷(兵庫)、屋島(香川)、厳島神社(広島)、そして壇ノ浦(山口)へ、平家が京から西に落ちていくルートを駆け足で辿る旅に出た。

不案内な西日本の旅のアウェイ感が、追われて西方に流れる平家、遥か東方から追い詰める源氏、双方の心情に重なる。各地で感じた源平の幻影と遊びながら描いてみた。

2019年9月5日
長野亮之介

Posted by mar