招き猫

9月22日(木)

台風一過。快晴の朝日が照らし出したのは、昨日の台風の風に煽られて庭木が盛大に枝葉をまき散らしたカオスな状況だ。近所迷惑になるので、朝食もとらずに起き抜けに落ち葉掃きにかかる。そういえば昨夜の台風ピクニックの途上、散らかった街路樹の落ち葉を従業員総出で掃除しているお菓子屋さんを見かけた。まだ風が残っている中で、折れた街路樹の枝条を片付けている造園業者もいた。素早く市から発注を受けて夜の臨時仕事に駆り出されたのだろうか。世の中はこうした地道な仕事をこなしてくれる人達で成り立っているんだとあらためて思った。落ち葉を片付けたあとは庭に散乱しているいろんなものを乾かしたり、昨日の濡れものを洗濯したりと結構忙しい。その後ホームセンターにネズミ取りを買いに行く。ここ数年我が家にはネズミが棲み付いている。二匹の飼い猫は全く役に立たず、仕方なくゴキブリホイホイみたいなネズミ取りを時々仕掛ける。ここ数日太った奴が我が物顔で走り回るようなので、とりあえずの標的はこいつだ。たまに夜中に台所等で出くわすと、結構可愛い顔はしてるのだが、あの長い尻尾は気持ちが悪い。何より不衛生なので、手を合わせつつ殺生をするはめに。天井裏にアオダイショウでも棲み付いてくれれば出てってくれるのだろうか。

2時頃ギャラリーに行くとすでに二人ほどお客さんが帰った後だった。お二人ともいろいろお世話になっている方で、会えなくて残念。お一人その場に居合わせた方は、昨日の読売新聞朝刊に掲載された「ハナタレ展」の紹介記事を見て来てくださった方だった。長野県出身の同世代の女性だ。読売新聞に連載している「銀幕一刻」を楽しみにしていると言われる。自分の関わった記事がどんな人に読まれているのか、そもそも読んでいる人がいるのかどうか、イラストレーターと言う立場で普段は確かめ様もない。だからこうして”読者”という未知の方にお目にかかれるのはすごく嬉しい。少々面映い気もするけども。今日はもうひと方やはり記事を見て来て頂いた。偶然だろうけどお二方とも自分でも絵を描かれる方だ。画材や紙等について質問をされる。こういう事も新鮮で面白い。他にも、ショウウィンドウに飾ったハナタレ招き猫を見て入って来たと言うお客さんも。今回の個展用に真っ先に作ったこのハリボテ猫は、結構お客さんを招いているようだ。売って欲しいと言う声もいくつか掛けて頂いた。我が家のコチビと言う現役猫がモデルなので、何となく手離し難く、曖昧な返事で逃げている。

天候が変わって雨が降り始めた頃、お客さんから近所で迷っている旨の連絡がギャラリーにあった。「すぐ近くみたいなんですけどね」と道順を説明したオーナーの加藤さんが心配そうに外に目をやる。二度ほど電話があってうろうろしてる気配だ。方向音痴の方なんですかねと加藤さんと話していたところにようやく入って来たのは、なんと日本を代表する探検家のSYさんだった。「地図がわかりにくいよ」と笑いながら差し出したコピーは雨に濡れて半分崩れている。SYさんとは地平線会議で昔からお見知りおき頂いている。つい最近まで”携帯電話を持っていない仲間”だったのに、今日は携帯を持っているではないですか。「台湾から石垣島に舟で向かったとき、ゴールのタイミングを知らせる必要に迫られて持たされたんだよ。つい最近買ったばっかりだよ」とSYさん。また一人、非ケータイ仲間が転んでしまった。今回展示しているゾートロープ(映画の原型のぱらぱら漫画のような装置)に掛けている動く漫画のモデルはSYさんだ。サルからヒトへのメタモルフォーゼが繰り返される絵は、人類の拡散ルートを人力で辿る旅を続ける探検家へのオマージュ…なのだが、SYさんは相変わらずお忙しく、これを説明する前に慌ただしく壁の絵を見て、ゆっくり話をする間もなく次の約束の場所に行ってしまった。

地平線会議の仲間、HYさんにも久しぶりにお目にかかれた。昨年出産して子育てに忙しいなか、時間をやりくりして来てくれたのは嬉しい。彼女も自宅の一角にギャラリーを設定しているそうで、今度尋ねてみたい。イラストレーターのMRさんとは二年前の個展以来の再会。元はと言えば地平線会議の仲間を通じて知己を得たのだが、前回はあまりゆっくり話ができなかった。お話しして見るといろいろと共通点があって、いっそう近しい感じを受ける。同業者とはいえ、僕はまだMRさんの絵を見た事がないので、いずれ目にする機会が楽しみだ。やはり地平線関係では編集者のKMさんもいらしてくれた。登山家で、この夏はマッキンリー山に登って来たそうだ。僕も30年前の秋に裾野のデナリ国立公園でしばらくキャンプをしていたことがある。ガイドツアーもあったはずなので登れば良かったなあ。KMさんはその時居合わせた僕の高校時代の友人FYと話が弾んでいた。FYも山好きで、インド駐在の折りにネパールの山にアプローチ等したそうだ。彼は大手企業に勤めるバリバリの企業人で普段あまり接点がないのだが、高校時代は文学青年でナイーブな一面が印象に残っている。FYがベトナムに駐在しているときにたまたま僕も行く機会があり、現地でお酒を飲んだことも。聞けばタイに駐在していた時期もあり、丁度その頃僕も頻繁に足を運んでいたのだった。彼の居たバンコクからはずいぶん遠い場所に僕は通ったのではあるけど、知っていればタイでも飲めたなという”もしも”話。

6時過ぎに山仕事仲間が数名集まってくれた。ドキュメンタリー映画監督のYKさん、カメラマンのTTさん、編集者のMT君とKS君。皆山で一緒に間伐をしたり、ツリークライミングをしたりする仲間だ。ところがもう一人来るはずの映画プロデューサーHCさんがなかなか来ない。電話で迷っている状況を聞くに、どうも自分の現在位置がわからなくなっているようだ。この付近に明るいTTさんが道順を説明しても、出発点が曖昧なのでますます迷っている様子。迷った挙げ句、結局タクシーでどこからかやってきた。着いたのはいいけど迷っている間にギャラリーはクローズ時間になっている。オーナー加藤さんのご好意でしばらく見せて頂き、その後用事のあるKS君以外の5人で飲みに行く。またも先日行ったモツナベの店に。YK、HC、TTの三名が今回参加し、昨年はMT君と僕が参加したチェンソーのワークショップの話に花が咲いた。このメンツにしては比較的早じまいで帰宅。でも結局日をまたいでしまった。

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